対話公園
記録 A1677
我々は<機密指定に付き削除>任務に関連し、テラスを根拠地として少数による浸透進入を行った。
連携された非線形分析情報を元に所在地を割り出した所、惑星意識によって収奪されたと思われるプリンスルパートの補給基地跡地から反応があることを確認した。
ここでは惑星意識干渉α型があったとの最終報告があったが、我々が現着した時点でそれらの存在は認識出来なかった。
補給基地跡地は形容し難い状態へと変異していた。
具体的には住宅地や工場や商業施設や港湾施設などが折り重なった状態であろうか、上下左右の重力や秩序を感じさせない構造体となっていた。
我々は、この跡地中心地において唯一秩序を感じさせる公園を発見した。
公園には半壊したシーソー、機能しないブランコ、黒板が存在し、黒板には以下の記載があった。
π(x)=R(x)+∑k=1∞Tk(x)+I(x)
我々は、ここを特異隆起点と考え、惑星対話装置ベンファーマを設置して帰還した。
記録 A1678
ベンファーマはいくつかの情報を収集することに成功した。
惑星意識は啓示と示唆と導きの三点の要素を人類の波長意識と共に混在させている。
これらの意識分析はまだまだ時間がかかるが、我々は惑星との意識対話が可能ではないかと希望を得ている。
記録 A1680
我々は報告書に斧鉞を加えることで本部と合意した。
<削除情報>につき、社会実験体記録<削除情報>の単独先行を許可した。
記録 A1681
信じがたい現象を記録した。
外見上は初老の人間体の投影図がベンファーマに記録されていた。
この人物を惑星アルファと定義し、その発言記録を追ったところ、
まるで人類の言語のような口語情報が存在したが、よくよく分析したところ人類にとっては意味不明な全く無秩序な言葉の羅列であった。
これらが何を意味するのかは別途調査を要する。
記録 A1682
<記録抹消>
記録 A1683
<記録抹消>
記録 A1684
緊急事態が報告された。
ベンファーマを通じて惑星アルファと交信を試みたオルタナ小隊の小隊長が意識喪失した。
その際にベンファーマに固体意識と呼称されるものが記載され、複雑なデータが多数記載された。
これらは小隊長に関する何らかのデータだと思うが、DNA塩基配列データでも、脳波データでもなかった。
至急調査する。
記録 A1685
ベンファーマ上に再び惑星アルファは出現した。
前回よりも意味が通りやすい口語データが残っているが、全体としては意味をなさない物が多い。
恐らく人間の口語データを真似て流用しているだけで、その意味までは理解していないものと考えられる。
記録 A1686
ベンファーマ上に動脈性と罹患、逓減と呼ばれる単語が頻出するようになったが、まだ全体的に意味を解釈出来ない段階に留まっている。
これが対話の合図か、拒否の合図か、単なる遊びなのか、その全ての意図を理解出来ていない。
記録 A1687
公園はエンタングルメント状態にあると推測される。
オルタナ小隊の小隊長らしき人物、これを惑星ベータと定義し、それが屹立しているのを発見したが、様々な対話行為を試みた所、何ら反応を示さない。
同時にベンファーマの活動が停止し、最後の投影図にはオルタナ小隊の小隊長の正面写真が記録されている。
記録 A1688
<記録抹消>
記録 A1689
本作戦の中止が正式に決定した。
この公園空間は何ら意味をもたらさず、人類と惑星意識との対話は失敗し、無闇に人的被害を広げる空間だと認識された。
本当にそうなのか疑問は残るが、人類の好奇心を嘲っているのだとすれば、悲しい事実だ。
我々は時間と人を浪費するわけにはいかない。
<– 惑星意識戦争 E-NAC第三記録群 日時抹消データ 報告書より –>