ハッシェルパフ通話記録

CO/:>こちら秘匿通信担当官です。本通話は秘匿暗号通信2X1AABC0X8AXLoCAにて通話され、その会話内容は全て録音されます。通話を開始して下さい。以上
CA/:>ライドウか?
RV/:>ライドウだ、ああ、お前か久しぶりだな。
CA/:>久しぶり。タフティ・ボラン領域で新型戦車が投入されたと聞いたが何か知っているか?
RV/:>多連結意識戦車のことか?名前が洒落過ぎて私は憎悪戦車と呼んでいるが
CA/:>君が作ったのか?
RV/:>まさか?正確に言うと、私の技術を用いて私の元部下が作った。私じゃない。
CA/:>止めなかったのか?
RV/:>止める?何の為に?
CA/:>あんなものは狂気だろう。
RV/:>あーあーあー、そのような話をするんだったら言葉に気をつけてくれよ。私は気が立っている。
CA/:>気が立つ?誰にだ?
RV/:>うんざりするほど聞かされているんだ、何もかもだよ。
CA/:>狂気には狂気で対抗せよと言うのが君の教えか?
RV/:>違うな、惑星意識には人類意識で対抗するのが我々の考えだ。
CA/:>効果はあったのか?
RV/:>当然だとも、だから軍から予算が出たんだ。
CA/:>君は予算と人類の尊厳の
RV/:>おい!言葉に気をつけろと言ったはずだぞ。
CA/:>君は人類の感情すら武器にしてしまう恐ろしさを一番知っているはずだろう?
RV/:>ではどうやって惑星意識と戦えと言うんだ?素手で戦えと言うのか?今までの人類は惑星意識と同じ次元にすら立てなかったんだぞ。
CA/:>憎悪感情を産み出す為にどれだけの犠牲が発生したんだ?
RV/:>軍機密情報に該当することは一切話せないな。
CA/:>人類が人類を守る為に、人類が人類を犠牲することをどう思うんだ?
RV/:>いいか、よく話を聞け、ここはクレーム受付窓口じゃないしお前の人生の疑問サポートセンターでもない。俺は人類の為に人生を賭けてここにいる。
そのために外出禁止も受け入れ、この狭い研究所と小さな敷地と住宅以外の自由移動は一切禁じられている。
それでも俺は欲の塊に見えるか?狂気の存在に見えるか?いいか、言葉に気をつけろと俺が言ったのは俺の感情を害すると言う意味だけじゃない。
最初の通話にもあったようにこの通話記録は全て記録されている。
俺がほんの少しでもお前に対していたずら心を持ち出して何かを話せばたちまち特殊部隊がお前の家に駆け込んでお前を拉致監禁して生涯の行動が制限される。
人類は惑星意識に勝たなければいけない。そのために行える事は何でもする。
かつて人類は人類の勝利の為に人類を犠牲にしてきたじゃないか。根本原理は何も変わっていない。
医療や整形技術は何から発展してきた?
それどころか人類間の戦争を遥かに飛び越えて、今は巨大な惑星意識とやらに人類は一丸となって対抗している。
美しい人類共同戦線ではないか?
それに仮に私の息の根を止めたところで、タラズ作戦に従事した部隊から多数の効果事例が世界に報告されている。もう今さら私が止める止めないの話じゃなくなっている。
だからこそ、だからこそだ。
私の技術を用いて間接的にかつそれらを効果的に用いれば、この種の人類感情を武器にした物ですらも制御可能であり、その後の人類の未来も保証されているようなものだ。
これは人類発展の偉大な成果だ。
今まで犠牲になってきた人類を忘れるな。彼ら彼女らは泣くことも怒ることもその権利すら奪われたのだ。あの惑星意識に。
CA/:>君は憎悪に囚われているのではないか?
RV/:>そうか?まあ、君にはそう見えるのだろうよ。それで?
CA/:>人類の感情を動力にした武器は、いつか人類を殺すとは考えないのか?
RV/:>惑星意識戦争に勝つまでの話だ。
CA/:>人類が一度手にした武器を捨てられるとでも?
RV/:>それは未来の人類が判断することだ。私じゃない。
CA/:>無責任ではないか?
RV/:>よし、分かった。君は未来の偉大で栄光なる人類の可能性に対して責任を負うと言うのだな。
じゃあ私は今現在生きて苦しみ悩んでいる人類に対して責任を負う。これは私の使命だ。
CA/:>一つ聞かせてくれ、君を信じていいのか?
RV/:>それぐらい自分で考えろ、お前は人間だろ?

<– 惑星意識戦争 戦時記録ファイル 日時抹消データ 通話記録より –>

視座シェルクレイム

導き手は言われました。
シェルクレイムは神の窓だと、人は神聖な領域に足を踏み入れ神との対話を許される時代に入ったのだと。

シェルクレイムは惑星意識から干渉されない唯一の人類空間です。
しかしながらこの空間は本来神の空間であるため、長時間人間がいることは出来ません。

シェルクレイムは正確には玄関の手前の庭です。
神の家は更にその先にありますが、確実に神の家の前まで来ることがシェルクレイムでは出来るのです。

シェルクレイムで出来ることは唯一、玄関の近くまで行くこと、神の空間を見渡すことです。
しかしたったこれだけでも人類は神の視座を体験するだけで数十億年とかかるでしょう。
それほど膨大な世界がここにはあります。

シェルクレイムでは一種の感応の万全と完結が啓示されます。
これらの反応に長期に晒されると例外無く極端な自我融解に達しますが、この状態は人類の定義から離れた存在となります。

私達人類が惑星意識戦争との果てにシェルクレイム領域を発見したのは神の恩恵としか表現出来ません。
我々はこの領域から膨大な自由意志の発露を可能にしたのです。

<- 惑星意識戦争 戦時記録ファイル シェルクレイムの記憶より->

第二首都の夜

その日、我々の街は惑星意識の航空隊の爆撃に晒される・・・と言う話だった。
だが人類の栄光の航空部隊によりそれらは全て退けられた。

街は祝賀ムードに包まれた。
各地にある防空施設では誰が持ち込んだのかギターやピアノまで持ち込まれ、兵士によって音が鳴らされた。
通りでは食事が振るわれ、みんなで思い思いのダンスを踊った。
これらは全てが美しかった。人間はみな本来は美しいのだ。
これほどまでに美しい存在に勝てる者などこの世に居ないのだ。
人類は砲火で戦うだけの存在じゃないと言うことを、惑星意識に見せつけるんだ。

私は居ても立ってもいられなくなり、大事に大事に育ていた花を植木鉢ごと持って通りに出た。
「見てくれ!こんなにも綺麗な花を咲かせることが人類には出来るんだ!」
高らかに宣言しながら道を歩いた。
ある者は歌い、ある者は踊り、ある者は奏で、ある者は色を、ある者は手話を、ある者は手品を、ある者は光を演出した。
人類が出せるあらゆるものがそこにはあった。
本当にそれは美しい。人類はなんて美しいんだろう。
とにかく私は誰でもいいからハグがしたくなった。
隣りにいる人、向いから来る人、後ろから来る人、様々な人とハグをした。
「人類の勝利だ!惑星意識にはこの程度のことすら出来ない!」
すると大きなどよめきの声が響いた。
声がする方に顔を向けると2人の若い人が車の荷台の上に乗り、高らかに宣言した。
「みんな聞いてくれ!今日、自分達は結婚することが決まった!!」
盛大な拍手と耳を貫くような激しい音と共にそれは歓迎され、受け入れられ、認められた。
「これは人類の輝かしいーー

<- 惑星意識戦争 戦時記録ファイル 惑星意識による砲爆撃直前の一般市民記録 ->