カゾリナ

惑星意識に対抗するために有機物に多数の機械を埋め込んだ。
この有機物は “アニマ” と呼称された。

アニマは遺伝子回路である。
特定の入力に対して特定の出力をする機械である。

我々は様々なデータを用意し、アニマの遺伝子回路を学習させた。
この遺伝子回路は非常に優秀で、過学習させてしまったが高度なデータ補正機能によりノイズデータを含め再解釈され我々の望むべき方向性へ結論を出した。

我々はこのアニマの持つ素晴らしい補正機能を理念型回路と名付け、この理念型回路を持つ遺伝子回路を幅広く人類に提供することとした。

<-“アニマ そして人類の勝利” 人類勝利技術カンファレンスにて ->

我々人類は直ちにこの理念型遺伝子回路”アニマ”の使用を禁止しなければならない。

南半球で発生した大規模な政治汚職の反動による政治テロにより
反汚職運動に名を借りた先住民族追い出しが行われた。
故郷を追われた文字を持たない発声言語文化のオガラペア・ブゥンドゥ(以下、オガラペア)の約6700名は、国境避難中に約300名が死亡、約1000名が負傷すると言う民族絶滅危機にあった。

これら住民を保護する名目で人道支援部隊が投入されたが、人道支援部隊は日々の生活の収入を提供すると称してオーダナと呼ばれる民間軍事会社による兵站支援にオガラペアを割り当てた。

この際、惑星意識との戦時下にあった国境付近にオガラペアが大量に投入され多数の死傷者が出た。
この死傷者は惑星意識による戦争被害民間死傷者として計測され、何名が兵站任務に属し、何名が兵站任務中で死亡したのか現在も不明である。
オーダナはその後、幾度か社名を変更し、現在はヘゲモニア・ウライマと名乗る。

この兵站任務中に重傷者となったオガラペアの1人、カゾリナと呼ばれる人物の意識は正常であるものの外部に対して訴えかける感覚器官を喪失しており、対惑星意識用の実験材料となった。

カゾリナは建設会社ネストアースプラント社アルコロジー基幹システム部に”有機材料”として購入された。
以後、カゾリナの名前は一切文書に記録されておらず、意味不明の有機物”アニマ”として数々の文章に記録される。

だがこの実態は人類が人類で実験を行い、人類が人類を犠牲にして助かろうと言う狂気の集団自殺行為である。
ネストアースプラント社はただちにこの事実を認め、関連書類を公表し、会社として法的責任を負うべきである。

反人権行為と安全保障を絡め、国防に資する技術開発に用いて利潤を得ようなどと醜悪なる狂気である。

私はこのおぞましい事実と関連資料を複数の信頼できる組織、および私が特別に信頼しているジャーナリスト個人7名にこの事実を送付している為、
私に対する脅迫や交渉は一切が無意味であることをここに表明する。

<-フリージャーナリスト グレン・クーパー氏による告発 ->

ソコトラ周辺海域高高度航空戦

ソコトラ周辺の海域上高高度において航空戦が展開された。
参加航空戦力は下記の通りである。
迎撃航空隊 ダビデ隊
迎撃航空隊 モスターニャ隊
迎撃航空隊 エルンシェット隊
戦闘航空隊 ケプリ隊
戦闘航空隊 アレース隊
軌道戦略衛星 グングニル

本任務は、イスマイリヤから出撃したグングニル破壊を目的としたと思われる惑星意識航空戦力(以下、スピットアローと呼称)を妨害することが目的である。
スピットアローの外見は大型の機械仕掛けの装甲板が張られた鳥のように見えるが、頭部に該当する部分が存在しない。
また翼下、背部、脚部に鋭利な槍のような物を装備しており、恐らくこれが攻撃主武器となる想定である。
これらが 24機出撃したと陸軍及び海軍から報告があった。

ダビデ隊がまず先行接敵し、敵進路の妨害および進行遅延させることに成功した。
ただしその際にダビデ隊の40% に相当する戦力が機能を喪失して離脱。
続いてモスターニャ隊とエルンシェット隊が接敵し、敵と乱戦状態へ遷移。
モスターニャ隊隊長から「Δόξα」信号を司令部は受信した後、音信途絶し全滅判定。
エルンシェット隊は戦力の過半を失い、副隊長から離脱指揮命令が出たがその後撤退中に全滅判定が出た。

この時点で海上から高空監視を行っていた艦隊より敵残存航空戦力が8機であることが判明した為、任務続行を判断。
精鋭で構成されるケプリ隊とアレース隊が現場空域に到着した為、交戦空域へ投入を決断、敵残存航空戦力破壊命令を出した。
接敵直前、敵スピットアローの2機は全翼から人を模した石像のような物を1体ずつ生み出し、投下した。
海上防空艦隊にこの石像破壊を命じたが、石像を破壊した瞬間に何らかの物理崩壊現象が発生した。
これは膨大な海水と対消滅したと考えられ、海上防空艦隊は突如海面に出現した巨大な穴に吸い込まれ沈没した。

ケプリ隊とアレース隊が接敵後、スピットアロー全機撃墜を確認した。
精鋭部隊損耗率も 10% の成果であった。

軌道戦略衛星 グングニル は予定通り目標地点到達後、軌道爆撃を行う。

<– 惑星意識戦争 戦時記録ファイル ソコトラ周辺海域高高度航空戦 戦況報告書より –>

ノヴァ管理機構 Log000-19 Apósyrsi

軽蔑する。
神と人類の運命に反逆し、脱落し、敗北する軟弱な国々と無能な指導者を。
我々は最高機密である気化兵器の無償提供まで行っているのに、最後の最後で司令官の独断で起爆しなかったなど人類全体に対する反逆行為であり、最大の反人道行為である。
今回の失態により 2億7000万人の生命が危機に晒され、実際に 300万人もの無辜なる市民が犠牲となった。
断固とした処罰はもちろんのこと、今後我々が提供する気化兵器の全ての起爆権限を我々は断固として保持する。

<– ノヴァ管理機構 歴史記録素子保管庫 惑星意識戦争 戦時記録ファイル 第七回人類会議 開催地コペンハーゲン 非公式会合にて理事国代表発言より –>