タラズ防衛任務

[日時情報抹消]
任務開始 2日目。

我々はアイシャ=ビビ、キジルシャリク、ベスジルディク、クサク、クルチャトイに防衛線を展開し、ロルレルドロムに防衛本部を設置。
タラズ防衛任務に従事している。

我々の任務は非常に簡単である。
眼前の有象無象を攻撃すると言う単純明快なルールしか存在しない。
要するにこの世の中をややこしくする物の大半は、それら単純なルールで処理し切れない例外の扱いだ。

キジルシャリク部隊から<情報抹消>連絡があった。
最前線に境界空間が出現したとのことだ。
境界空間には武装したと思われる少女一名、護衛と思われる三名の計四名が立方体型固形惑星意識と戦闘をしていた。
我々はこの空間に干渉出来ない為、ただ見ることしか出来なかった。

<情報抹消>、境界空間を監視していたキジルシャリク部隊から収容連絡があった。
負傷した護衛兵1名、気絶状態の少女1名だ。
何らかの原因により境界空間からこの二名ははじき出されるように放出された。
護衛の男性はドーンと名乗った。
識別コードを求めたが携帯していないとのことで遺伝子調査に回した結果、第三計画に属する人類と判明した。

我々もまた人員不足が激しい為、ドーンが関与する部隊を我々の計画へ転入することを求めてみたが、今はそれどころではないと言う。
彼はXORと呼ばれる報告が含まれたチップを手渡してきた為、本部の情報班に内容を調べさせた。

任務開始 3日目。

XORの内容は非常に多岐に渡ったが要するに以下の内容である。
・第三計画に属する人類社会の生活形態が大幅に変化し、食事は水素とカリウムがメインとなる。
・脚部関節が増えて多関節化する人間が続出した。
また多関節化しても、まるで数十年その状態であったかのように体型変化に慣れる人類が多発した。
・上記は惑星意識の影響と思われるが、治療法は不明である。
特に大きく害が無い為、事実上の放置状態だが明らかに他人類と種を異とするあまりにも急進的な進化方法である為、対応に困惑している。
・人体構造の変化は第三計画指導層の困惑を招いた。種としての人間性の担保と定義はどう行われるのかについてじっくり考えるほど余裕のある生活をしていない。
場当たり的ではあるが旧来の人類を第一人類とし、構造変化のあった人類を第二人類と分類して棲み分けを行った。
・容姿と行動様式があまりに異なることから感情面の軋轢が増えている。食生活があまりにも違い過ぎて集団行動が困難であり、労働力や兵站機能が麻痺しつつある。
これらは惑星意識による攻撃の一種と考えている。
・一部には第二人類強制隔離計画も出たが、反発も考慮し現在は何ら措置をとっていない。

気絶状態の少女が目覚めた為、尋問を開始する。
少女の名前はレミ、第三計画に所属する人類だが、ドーンとは別部隊のようだ。たまたま現地合流し、共同戦線となったと説明している。
レミが属する部隊はカファーヴァ部隊と呼ばれる独立行動部隊であり、主指揮系統から独立した存在だ。

任務開始5日目。

ドーンが関与する部隊が対惑星意識防護目的で死体収集任務についていることが判明した。
境界空間内では第三計画に属する3万人前後の移動型居住施設があり、非武装民2万4000人、武装民4000人、民間武装志願者2000人で構成されている。
現時点までに惑星意識の防護作戦に3度成功しているが、多数の被害により継戦能力の限界に達しつつある。
そこで彼らは死体を利用した惑星意識に対する防護装置の開発に取り組み、部分的ではあるがその効果を実証した。
これらの成果は我々にとっても利益と考えており、現在技術情報の取得を急いでいる。

任務開始6日目。

クルチャトイに対して大規模な惑星意識攻撃が確認された為、クサクとベスジルディクの予備部隊をクルチャトイに回した。

この戦闘では非常に奇妙な報告が上がった。
ホルン型の頭部を持つ人型武装集団による攻撃を確認したが、過去これまで近似の事例は確認されていない。
戦術指揮統制へ情報を送信したが、事例の非線形分離が困難である為、解釈や学習は極めて難問であると結論が出た。

任務開始7日目。

ホルン型についての形容表現に本部疑義により再提出命令があった為、再報告する。
ホルン型とは楽器のホルンを意味し、現地部隊でそのように呼称されていた為、報告書にもそのように記載したが通念上かけ離れた事象であるため不適切な表現であった。
以後、注意する。

任務開始10日目。

惑星意識によるクルチャトイへの猛攻がようやく終わりつつある。
味方部隊への補給も滞りなく進んでおり、現時点で極めて高い成果を出している。

ドーンへの聞き取り調査の結果、人間の死体反応を利用した惑星意識撹乱計画が第三計画内に存在し、また一定の効果を得ていることが判明した。
我々への戦線へ反映するためにぜひドーンの協力が必要だが、本人は情報をこれ以上保持していないと言う。
虚偽の発言の可能性も含め、今後は懐柔策を強化して行く。

任務開始14日目。

クルチャトイの参謀支部が惑星意識による物と思われる三角錐状の砲弾らしき砲撃を受け、指揮系統に一部乱れが発生している。
緊急展開部隊を派遣した。

この砲弾らしき物についてだが、詳細は分析する必要が認められるが、基本的には精神汚染弾のような物であると推測している。
砲弾により防護陣地の一部が破壊されたが、それは砲弾そのものと言うよりも、砲弾の影響を受けた部隊による自壊部分があると報告を受けている。

我々はこの砲弾に対して死体を利用した精神汚染防護を試みることにした。もちろん全くの推測である。

任務開始15日目。

クルチャトイ前線が一部崩壊したことを受け、撤退指示を出した。
我々の現在の継戦能力に疑いの余地は無いが、物的人的支援は無限に歓迎する。

任務開始16日目。

驚くべき成果である。
死体を利用した精神汚染防護は想定以上の効果をもたらした。
恐らく精神汚染弾による被害は 8割ほど削減された。

我々はこの成果を広く人類に共有したい。
戦闘人員は1人でも欲しいところだが、我々は急遽情報共有分隊を作成し、これら成果効能情報をまとめ、幅広く人類に発する物である。

<– ノヴァ管理機構 歴史記録素子保管庫 惑星意識戦争 戦時記録ファイル タラズ防衛任務 報告記録より –>