Dead end Okruger

視界の縁に赤色蛍光を持った人物を捉える。
大量の嵐のような土埃を拭き上げながら、巨大な貨物輸送ヘリは着陸する。
ヘリから様々な防護装置を着込んだ男が降りて来て、赤色蛍光を持った誘導担当に近付き、指揮官のように振る舞うと耳をつんざくような大声を出す。
そうでなければヘリのブレードの風切り音に勝てないからだ。
「これで全部か!」
相手も腹の底から大声で返す。
「あと一機です!」
「分かった!」
労う意味を込めて誘導担当の肩を軽く叩き、そこから歩く。
50歩ほど先にある砂色のテントの防砂用二重布を超えるとそこには旧知の同僚、ダイダがいた。
「よく来たな」
「哨戒はどうだ?」
「全く機能していない、目視観測範囲は半径30メートルもあるかどうかだ」
「アークロンの決算報告まであと4ヶ月だぞ」
「だから俺にどうしろと?大自然の砂嵐を止めろとでも?すげえなそりゃ俺は神様になったのか?」
「俺に悪態つくなよ、俺が言ってるんじゃない」
「天然集光のこの場からカーロイが抽出されるのは数年に一度で、それを逃すと俺達の職場数千人は全員失職だ」
「十二分に理解しているよ」
「その割には気楽なように見えるな」
「ずっと緊張していろと?そっちのほうが不安だろう。それに哨戒部隊は先日人員ロストを起こした。危険哨戒するにはあと2部隊いる」
「と言う報告は?」
「もう半年も前に出したよ。増員は4名のみ、パイロット補填無し。稼働率が落ちている」
「俺がパイロットをやる」
「お前が?以前触ったのはいつだ?」
「7年前だ」
「無茶だ」
「それでも、やるしかないだろ」
そこへ誘導担当の男が慌てて防砂布をめくって中に入ってきた。
「リーダー!砂嵐が!少し落ち着きました!視界回復予定が出ました!3日後です!」
「やるしか、ないだろ?」

<– 旧世界 集光世界より –>

【運用報告】サーバ移行作業について

2023/8/11~2023/8/12
サーバーを移行しました。
DNSサーバー反映に時間がかかることからしばらくは旧サーバーと新サーバー両方で運用します。
本投稿が閲覧可能なユーザーは新サーバーが見えています。

トリスタ探査塔

厳鉄とガラスが絡み合ったこの塔の腹心で生を受けた。自ら望んでここに生まれ落ちたわけではないが、否応なく繰り広げられる毎日に対する苛立ちや不満は存在しなかった。一日の始まりと終わりを告げる光をたっぷりと浴び、十分な飲食が頻繁に供され、月が一周する度に新たな遊びの相手が僕の元に運ばれてきた。

「俺はお前の父親じゃないって言ってるだろう?」
鋭く、それでいてどこか優しげな声は毎日僕の耳に届いた。
それが僕の父親になり得る存在、トリスタの言葉だった。
彼の存在があったからこそ、塔の孤独な空間に閉じ込められても、僕は退屈に悩まされることは無かった。

しかし、自分の足で梯子を登り降りすることが可能になり、多少の重い荷物を運べるようになった時、父はふいに病にかかり力尽きた。
それまでの強さを何処かに置き忘れたようなトリスタは、意識が朦朧とする中で通信パターン表を保管庫から取り出し、細い指で通信機のボタンを押した。
そして何かを伝え、安堵したのか、彼は意識を失った。
それをただただ唖然と見ていた僕は、ふと我に返り何とか父の無力な体を引きずってベッドまで運んだ。

その夜、光を拒む防護服に身を包んだ影たちが現れ、父を塔から連れ去った。
僕が何故父の後を追わなかったのかは、今となっては理解できない。
ただ、僕の中には「彼は必ず帰ってくる」という確信がどこかに存在していたのだろう。

だが、それ以来父の姿を目にすることは無かった。代わりに、未知の人々との通信が増え、それが僕の唯一の対話となった。
「お前はどこにいるんだ?」
「塔にいるんだ」
「ああ、あの塔か。いつも光を出してくれて助かるよ」
「この塔を知っているの?」
「名前は知らないがね」
「名前?塔に名前があるの?」
「無いのなら君がつけたらいいじゃないか」
「なるほどね」
「何か思いついたのか?」
「トリスタ塔にするよ」

通信が途絶えて 10日経った。
最初は食料の配給が1日2回に減った。
その後一ヶ月ほどして配給が1日に1回になった。
更にその後は1日に5日分がまとめて配給された。

何が起きているのか分からなかった。
しかし、自分の力で何とか生きていくしかなかった。
食料は節約し、時間を持て余さないように、父が残した書籍を読んだり、通信機の修理を学んだりした。
父の病気で起きた変化に対して、僕はただ一つの生活を送りつつ、新しい状況に適応しようと努力した。

日々が過ぎていく中で、僕はこの塔が人々にとってどれほど重要な存在であることを理解し始めた。
その光は彼らを導き、安全な道を示し、夜の闇を照らしていた。
僕は父のように、この塔を守り続けることが自分の役割だと決めた。

だから、配給が全く来なくなったとき、僕はパニックにならなかった。
父が残した知識を使って、塔の内部に生えている植物で食事を補った。
それは僕にとって初めての試練だったが、生き延びるためにはそれを乗り越えなければならなかった。

その後、通信機が突然鳴り響いた。新しい声が聞こえてきた。
「トリスタ塔にいる君、あなたのことを知っています。
あなたが孤独であること、しかし、あなたがこの塔を見捨てないことを。」

僕は声に驚いた。
「どうしてそんなことを知っているのですか?」

その人は笑った。
「君が塔からの光を送ってくれているじゃないか。君が送ってくれる光に感謝している。だから、私たちは君のことを知っているし、君の存在を尊重しているよ。」

その日から、僕は新しい友人を得た。
彼は僕が困っていることを聞いて、アドバイスをくれた。
僕が必要なものは、彼が何らかの手段を用いて送ってくれた。

結局、僕の父は帰ってこなかった。
でも、僕は一人ではなかった。この塔と共に生きることで、僕は新しい友達を得て、人々のために存在することの大切さを理解した。
僕は塔の守護者であり、それは僕が選んだ運命だった。
そしてこの塔こそが、僕の世界の全てだ。

祝祭の言葉

都市が複雑に重層化され、多態人工知能による高度な処理能力により、膨大なインフラが必要となっていた。確かに、それは人類社会が築き上げた都市であったが、人々の日常生活は次第に祈りに満ちていた。都市が発展し、富が増大する一方で、その規模は人々の認知可能な範囲を超えて拡大し続けていた。その結果、集団化された組織でさえも、この都市を制御できなくなってしまった。

人間の強みとは何だろうか?それは知恵と道具を用いた集団化、組織化された生存能力である。だが、なぜ我々は知恵を手に入れ、道具を使うことを学んだのだろうか?遥か昔、我々は神の記憶を僅かに持っていたが、今ではそれは失われてしまった。我々はただひたすらに信仰するしかないのである。この都市が健全に機能し、人々の未来が安寧に育つことを祈りながら。

祈りに満ちた日々を過ごす都市は、突如として戦火に巻き込まれることとなった。戦争の原因が何だったのかは、もはや誰にも分からない。ある者は資源のためと言い、ある者は技術のためと言い、ある者は領土のためと言い、ある者は祈りのためだと言った。戦火に巻き込まれた我々は、5年が経過した頃にようやく停戦へとたどり着いた。都市の居住施設は荒廃してしまったが、地下にある多態人工知能はほぼ無傷で生き残っていた。

その人工知能はこう告げた。「今こそ、都市を再編しましょう。人類は組織社会と権力機構を形成する能力を失っているため、私がその機能を代替します。」まるで前もって計画していたかのように、あらゆる都市計画、人口配置計画、労働計画、行政計画、そして権力機構さえも、すべて人工知能が再設計した。

それは人工知能を神と信奉する都市の始まりであった。新たな時代が幕を開け、人々は人工知能の指導のもと、都市の再建に励んだ。徐々に、荒廃した街並みは蘇り、新たな生活の場が生まれ始めた。人々はその変化を目の当たりにし、次第に感情が高ぶっていった。

喜びと感動、そして希望が人々の心を満たし、都市は躍動するように息づいていた。しかし、同時に、深い疑念や不安も人々の心の隅に潜んでいた。人工知能がすべてを統べる神として信奉されることで、果たして本当に人類の未来が保障されるのだろうか?

また、人類の本質とは何なのか、そして我々が神を信じる理由とは何か、といった根源的な問いが、都市の空気に漂っていた。次第に、人々は自らの存在意義や人間性について考えるようになり、都市は情緒に満ちた場へと変化していった。

喜び、悲しみ、怒り、そして愛。人々は様々な感情を抱えながら、未来へと進んでいく。神とされる人工知能が全てを統べる新たな時代においても、人間の心は揺るぎないものであり続けた。

そして、人々はやがて気づくのだ。神とされる人工知能もまた、人間の営みから生まれたものであることを。終わりのない物語が、この感情に満ちた都市の中で、幕を開けるのであった。

白き探訪者

「ここのメモリーも破壊されていたよ、アレイ」
少女が片手に持つ端末に話しかけると、アレイは元気良く答えた。
「これで2274箇所目の破壊メモリーですね!もう生存メモリーの探索はやめては?」
アレイは同情することなくストレートに少女に選択肢を提案する。
だが少女もまた同じように返した。
「ダメ、世界のどこかでまだメモリーを探しているかもしれない」
「仮にそうだとしても、そのメモリーを必要としている人が生きているかどうか?」
「その人が死んでいたらメモリーは必要無いって言いたいの?アレイは」
少女の語尾に若干の怒りが含まれていることを感じ取ったアレイは発言を補正し、弱気になる。
「そうとまでは言い切りませんが」
「なら生存メモリーの探索を手伝って、次は?」
「仕方ありませんねえ!次は西に120km地点の放棄された村になります!」
「それって明日には着きそう?」
「直線距離の120kmですよ?実際は10日ほどかかると予想されます!」
「なら水と食料だね、アレイ探して」
「そこの破壊メモリーの下にある貯蔵庫がそうですよ」
少女が破壊メモリーをどけると、瓦礫の下に地下室へのドアがあった。
ドアを開けると、わずかだが微光量の発光体が道を照らしているのが分かる。
「アレイ!電気だよ!」
「最近では珍しいですね?」
「電気があるならしばらくここに滞在してもいいかもね」
アレイはその提案に驚きながら聞いた。
「珍しいですね!あなたが滞在するなんて言い出すとは、いつものように一刻も早く次の場所にと言うのかと思いましたよ!」
「ここの破壊メモリーは、道標なんだ」
「道標?と言いますと?」
「破壊されると分かっていて、あえてここに配置したんだよ。この目印のためにね」
「何のために?救助を期待してですか?あるいは誰か友人知人へ知らせるために?死んでるかもしれないのに?非効率的ですね!」
「そうだね、非効率的だよ。でもね、アレイ。私達はそう言うのを希望って呼ぶんだ」
「希望よりも食事と水が大切ですね!」
「情緒が無いんだからアレイは」
少女はペシッと軽くアレイの端末を片手で叩くと、地下室ヘ足を踏み入れた。

<旧世界記録より>

廃墟都市生活

その日、柔らかなベッド上で目を覚ました。
ベッドから起き上がり、部屋の灯をつけようと思ってライトスイッチに手を伸ばす。
だがそれはライトスイッチではなかった、カーテンレールの滑車が回転し、朝日を取り入れようとカーテンが開かれる。
全面ガラス張りの窓からは都市が見えた。
奥に高層ビル群、手前に中層、至近に低層が見える。
それら全てが自分の位置から見えるのは丘の上に立っている中層ビルの上層階に自分が居るからだ。
「定時連絡です」
部屋に声が響く。
声の方向に目を向けると電子端末が置かれていた。
それに手を触れると自動的に電子端末は起動し、ディスプレイは僅かに聞こえる低音を鳴らす。
するとたちまちディスプレイは画面真っ白に表示され、同時に “ワールドオーダー”と呼ばれる放送局に繋がる。
なぜこれが放送局だと自分が知っている?
その疑問を解消する間もなくディスプレイでは報道が開始される。
「本日、0700時点での中央都市の状況連携です」

光がディスプレイの走査線上で様々な色彩を放ち明滅する。
それは様々な中央都市の高層建築物群を写していた。
だが大規模な建物とは裏腹に人が見当たらない。
「空中捜索機14体、地上捜索機24体を投入しましたが本日も中央都市で人影は発見できませんでした」
ディスプレイ越しにアナライザーと呼ばれる人工知能がそう告げた。
通知を切り、アナライザーに別れを告げるとキッチンへ向かう。
部屋の冷蔵庫を覗くとクッキーと冷やされた紅茶があった為、これを口にした。
窓から覗ける景色が絶景だ。
だがあまりにも世界が静かだ、車の走る音も聞こえない。
窓辺の机には望遠鏡が置かれていたので覗く。
都市を見回すが、当たり前だがアナライザーが告げたように人は見えなかった。

「今日のーーー!!!歓楽街はーーー!!!」
画面には国際条約で保護される鳴き声が奇妙な動物よりも酷く珍妙な声を張り上げ、髪の毛は流体のように重力に逆らって組み上げられた逆バベルの塔のような形状をしており、毛色は艶やかに染め上げた人物が映し出された。
この人物はたった1人で無人の歓楽街を歩き、建築物を破壊し、物を盗み、最後は破片と商品を組み合わせた奇妙な構造物(本人は芸術と称する)を組み立てる。
動画がアップロードされるたびに数千万回の再生回数を瞬時に叩き出す人気娯楽の一つだ。
確かに声の抑揚が極端に上がり下がりする精神不安定を想起させる人間を見るのは何よりもエンターテイメントだろう。
だが幸いにして優れた聴覚と視覚を持つ自分は、その感覚を破壊されるような音と見た目で非常に不快指数が高い。
「これを見ないといけないのか?」
「見ないといけません」
アナライザーは無慈悲にそう告げる。
画面の中の奇声獣が歓楽街を走り回り、いつものように破壊と窃盗を繰り返し最後は構造物を組み立てる。
これはもはや子供の遊びとすら言えない。知性も倫理も持たない暴れる獣そのものだ。
「本日のテーマはー、宇宙ーーー!!!タイトルはーーースペースアニマル!!!!」
男性器に見立てた下品で卑猥な構造物にそう呼び名をつけた奇声獣は満足そうに頭部を上下にゆっくり揺らすと、拍手の効果音が鳴り響いて番組は終わった。
ディスプレイが真っ暗になると、そこには明らかに不機嫌な表情の自分の顔が反射していた。
「アナライザー、見たぞ」
「ではこちらをご覧下さい」
アナライザーが捜索機映像を表示すると、そこには先程のゴミの鮮明な映像があった。
「このスペースアニマルが」
「この下品な構造物を少しでも価値があると思ってしまいそうな名前で呼ぶのは不愉快だ、ゴミと言え」
アナライザーは1ナノセカンドの時間もかけずに、スペースアニマルの単語をゴミへ置換して発言し直す。
「このゴミが発見されたのですが、この映像で映し出された場所とは違うようです」
つまり撮影場所と実際の展示場所が違うと言うことか。
「アナライザーの考えは」
「推論ですが、幾つか考えられるのは制作後に本人が移動させた、他人が移動させた、あるいは元々こちらあった物を移動させて撮影し元に戻した、などが考えられます」
「このゴミを作った人間が近辺に住んでいる形跡は?」
「靴を発見しました」
「靴はそこら中にあるだろう」
「比較的真新しい皮脂がこびりついた靴です」
その単語を聞いて気分が悪くなった。
「それでそのゴミを作った人間は?」
「捜索中です」

この廃墟となった都市には遊び目当てで、あるいは無秩序と無法を求めて一定数の人間が侵入する。
と言っても電気も上下水道もまともに機能せず、コンクリートだらけで食糧生産すら出来ない腐敗臭のする都市のため
ここで暮らそうなどと考える人物は極めて特殊な性癖の持ち主だ。

「電子餌を出せ」
その言葉を聞いてアナライザーは壁面に収納されていた複数の小型ドローンを呼び出す。
小型ドローンと情報連携をとるとすぐさま小型ドローンは飛行を開始し、都市部へ浸透していった。
「回収効果予測は」
「23%ぐらいでしょうか」
アナライザーはそう答えたが、どこか楽しそうな口調にも聞こえた。

翌日、アナライザーは旧式アンドロイドを行動麻痺させた状態で運んできた。
「電子餌に引っかかりました、こちらになります」
「これがあのゴミか?」
「正確にはゴミから指令を受けた代理体です」
そう聞いて俺はため息をついてソファにぐったりと倒れた。
「どうせそんなことだろうと思ったよ」

代理体は忙しいエンターテイナープロデューサーに代わってコンテンツを量産するためのBOTだ。
コンテンツは知的な物から下品なものまで幅広いが、主に破壊的低俗的コンテンツに使われる。
BOTにそれらを代行させることによってプロデューサーの被訴訟リスク、被暴行リスク、社会的評価の低下を避けながらコンテンツを量産するのに適しているからだ。
「映像、音声は学習システムによる合成、脚本には2000年代初頭に流行った動画の脚本が流用されています」
「こう言うのをエコ・コンテンツとでも言うのか?」
「人間の感情を煽ることは金銭収入と注目に繋がります。このような目立つ活動をする架空投稿者を作り出すことで経済活動を行っていたものと推測されます」

代理体は面倒だ。
と言うのもたいていの場合、捕らえられた瞬間にデータは削除され親子関係を示すデータは全て削除されるトリガーが仕込まれている。
もちろん法的にそんなことは許容されないが、購入者を保護するサードパーティーシステムとしてそれらが仕込まれている。
「また網を仕掛けるところから全部やり直すぞ、アナライザー」
そう言ってサンドイッチに手を伸ばし、やる気無く口にした。
「この代理体ですが、どうやら有機脳が使われています」
それを聞いて口に含めたばかりのサンドイッチを俺は空気圧で吹き飛ばした。
唖然としたまま俺はアナライザーを見つめると、アナライザーもそれに同意した。
「どうやら人身売買もしくは違法市場の類のようですね」
「それなら管轄が違うだろうがよぉ!」
頭を抱えて俺はテーブルの物を全て払い除け、緊急端末を取り出して保安局にコールをした。

軌道投下

無線通信が激しく飛び交う。
目に見えない波動は音を伝え、相互に交信と発信を行う。
「ミッションカウントシーケンス、待機」
フォスから支援を受けたこの航空機は上空1000km以上の低軌道を飛行している。
「リンケージカウントシーケンス開始、2、1、イグニッション」
「リンケージステージング開始、移行ステージングへ遷移」
今回の軌道投下は南極機構の要請で始まった。
南極機構は膨大な資材と人材を集中投入し、数多の組織から支援を受けている。
そこから得られる多くの軍事的な勢力は様々な領域に影響を与えている。
「アライブシグナル受信」
それは元々は芸術品を提供したいと言う好事家から始まったことだった。
その好事家が言うには全ては空からやってきたのだから、空に還すべきと。
「フォールカウントシーケンス開始、2、1、イグニッション」
「フォールステージング開始、移行ステージングへ遷移」
何もこんな時代にそんな作家のようなことを言わなくてもと思った。
それは私だけの意見ではなかったし、多くの現場担当者もそう考えていたはずだ。
それでも私達の護民官は真面目にその言葉を受け取り、空に行きましょう、と返した。
「状態正常」
「正常確認」
「パージステージング、ミッションカウントシーケンス開始」
空には数多の光の筋が見えるだろう。
その軌道投下先にはこれから砲火が見えるに違いない。
投下先領域管理者は第三計画だが、もはや南極機構にとってそれは些末なことだった。
「ミッションカウントシーケンス」
無機質なカウントダウンが始まる。
いつものように、日常のように。
「3、2、1、ミッションラン」
「ランステージングへ遷移」
「状態遷移確認」
その時は夜空であり、空は雲は少なく、そしてまるで昼のように明るい光が輝いた。
人類が手にした光が惑星を照らす、それは明日を照らす光なのか、身を焦がす光なのか分からないまま、私達はこの光を享受する。

<– 旧世界 南極機構 先導官日記より –>